栄養士の将来性はある?需要や価値について解説
今回のテーマは、栄養士の将来性です。進路やキャリアの一つとして栄養士やその仕事に興味をもった方や栄養士になりたいと考えている方にとっては、栄養士の社会的期待の大きさや栄養学の専門的知識やスキルの獲得に魅力を感じていらっしゃることでしょう。
一方で、進路やキャリアを検討中で様々な情報を収集中の方にとっては、栄養士免許は今後も役に立つのか?栄養士に将来性はあるのか?などは、気になるところかと思います。
そこで今回は、栄養士の将来性について解説していきます。
栄養士の現状と需要
日本では、約100年にわたり栄養専門職を養成し、時代の変化に応じた役割を見いだしてきました。厚生労働省によると、昭和20年から令和2年度までの栄養士免許交付者数の総計(累計)は、1,132,211名にのぼるそうです。平成17年度以降は毎年20,000人弱の方に栄養士免許が交付されています。将来、妊娠・出産・子育て・介護などのライフイベントがあっても両立することが可能だったり、自分のタイミングで再就職が可能だったりと、人生100年時代といわれる長い人生を考えた時にもおすすめの職業といえます。
前回までのコラムでも解説してきましたが、栄養士は非常に幅広い職域で必要とされ、活躍していますので、就職先も多岐にわたります。法令によって管理栄養士・栄養士を配置することが決められている施設は病院や学校、老人福祉施設など、全国各地に様々な施設があります。
全国栄養士養成施設協会が公表している就職先のデータ(平成30年度)によると、栄養士に多い就職先は以下の通りです。
l 病院…23.3%
l 児童福祉施設…19.5%
l 介護保険施設…18.6%
l 産業給食施設(工場・事業所)…18.4%
l 学校…7.6%
l 社会福祉施設・矯正施設…2.9%
l 栄養士・調理師養成施設…0.4%
l 官公署…0.3%
l その他…9.0%
管理栄養士に多い就職先は以下の通りです。
l 病院…33.1%
l 産業給食施設(工場・事業所)…14.6%
l 介護保険施設…10.4%
l 児童福祉施設…9.6%
l 学校…4.9%
l 社会福祉施設・矯正施設…3.8%
l 官公署…3.4%
l 栄養士・調理師養成施設…0.7%
l その他…19.5%
このように、栄養士・管理栄養士の具体的な活躍の場(就職先)が多岐にわたっていることがわかります。また、その他にはフリーランスで働く栄養士が含まれますが、知識やスキル、人脈を活かして活動をしています。
栄養士に将来性がある理由
実は、以前は栄養士や管理栄養士の免許を取得しても、仕事に就くことが難しい時代がありました。栄養士や管理栄養士の価値が社会には浸透しておらず認められていなかったのです。
しかし、社会全体での健康意識の高まりや課題となっている高齢化によって、栄養士・管理栄養士が求められるようになってきており、活躍できる場も広がっていることから将来性のある職業といえます。
|健康意識の高まり
人生100年時代といわれる長い人生、平均寿命が世界的にも長いことで知られる日本ですが、いつまでも元気で楽しく過ごしたいというのは誰もが願うことですね。健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間を健康寿命(2019年で男性72.68歳、女性75.38歳)といいますが、実は平均寿命と健康寿命には差(日常生活に制限のある不健康な期間)があって、男性で約9年、女性で約12年です。年々この差は徐々に小さくなってきています。健康寿命が短ければ、長生きしていても医療費や介護を必要とする期間が長くなってしまうので、平均寿命と健康寿命の差は、短いほど良いのです。
では、どうすれば健康で長生きすることができるのでしょうか。健康には、食事、運動、休養の3つの要素が大切です。「結果にコミットする」で有名なライザップのテレビコマーシャルをご存じの方も多いと思いますが、まさに運動と食事から健康寿命を延伸することのメリットを謳っています。
また、健康意識が高まっているなかで、食事に関する情報はあらゆるメディアで注目度が高いといえます。栄養士は「栄養・食を通じて、人々の健康と幸福に貢献する」専門職ですので、こうした意識の高まりは栄養士の活躍できる場の拡大につながっているのです。先ほどのライザップでも運動だけでなく栄養士による食事指導も売りにしていますね。
食生活は習慣ですのですぐに改善することが難しかったり、自分一人では途中で挫折してしまいそうになったりします。そんな時に栄養士の専門知識とサポートがあれば、より健康に近づきやすくなりますので、将来的にも栄養士は必要とされるといえます。
|高齢化による影響
年齢を重ねると、若い時とは異なる食事の問題に直面する方が多くなります。例えば、身体機能の低下にともなって日常的な活動量が減ることにより食事の量が減ってしまったり、咀嚼や嚥下の機能が衰えることで食べ物が食べにくくなってしまったり、生活習慣病により食事の内容に制限が必要になったりするなどの問題が起こります。
これらの問題に適切に対策ができないと、衰弱したり、病気が悪化したりと日常生活を送ることにも困難をきたしてしまいます。このような高齢者が増えれば医療費など社会保障費が増加し、社会全体での負担も増えることになってしまいますので、高齢化が進む日本においては大きな課題になっているのです。
これらの問題を食事の面から予防し、悪化を防いで解決に寄与できるのが栄養士なのです。少ない食事量であっても、食べにくい状態であっても、また食事に制限があったとしても必要な栄養を摂取しなければ健康は維持できません。また、おいしくて楽しい食事は心の健康にも関わり、QOL(生活の質)の向上に繋がります。食事は、高齢者の健康維持のベースとなる大事なポイントのひとつですので、将来的にも栄養士の需要は続いていくといえます。
|食育の浸透
「食育」という言葉をよく聞くようになりましたね。2005年に食育基本法が制定されましたが、この背景には、栄養バランスの偏った食事や不規則な食生活による生活習慣病患者や肥満の人口増加という問題がありました。子どものうちから、正しい食生活の教育をすることでこれらの問題を解決しようとする意識が広まり、学校には食の指導を行う「栄養教諭(栄養士+教諭)」も配置されています。高齢者に対してだけでなく、子どもたちやその保護者に対しても食に関する意識改革をすることで将来にわたって健康でいられるように働きかけるのも栄養士の役割として、社会に浸透してきています。食育するために必須の資格はありませんが、やはり「栄養士」という説得力に勝るものはありません。
将来AIが発展しても栄養士は生き残る?
スマートフォンで気軽に食品の栄養計算ができるアプリが登場するなど、デジタルデバイスやAIの発展によって一般の人でも手軽に栄養計算ができるようになってきました。特にAIは沢山のデータを同時に処理することや蓄積されたデータに基づく処理などに長けていて、学習機能もある点が優れています。そうなると、栄養計算を仕事にする栄養士は必要なくなるのではないか、AIが発展することで栄養士の将来性に影響するのではないか、と思われた方も多いのではないでしょうか。
確かに、入力されたデータを計算処理して、または蓄積データに基づいて瞬時に結果を出すという面では優れていますが、それだけなのです。しかし、実際の食生活は個人によっても違いがあります。同じものを食べたとしても、生活パターンも異なれば、嗜好や性格も異なります。誘惑にいつも負けてしまう人もいれば、我慢できる人もいます。その時の体の調子や心の状態も異なります。このような気持ちの面も含めた個人の違いに対応できるのは、やはりヒトなのです。栄養士・管理栄養士の仕事は理想の献立を立てるだけではなく、AI機能では図れない一人ひとりに合わせたサービスに応えることが要求されるのです。
2013 年、英オックスフォード大学准教授の AI(人工知能)などの研究を発表した論文が話題になりましたが、AIの発展とともに無くなる職業・生き残る職業で、栄養士・管理栄養士は、生き残る職業の11 位にランクされていることも、うなずけます。
AI機能を一つのツールとして上手に使いこなすことのできる栄養士が、今後生き残っていけるのではないでしょうか。
今後の栄養士に求められること
栄養士には需要があり、将来性があることを述べてきましたが、今後の栄養士に求められることについても触れてみたいと思います。
本学で栄養士を養成している食物栄養専攻の先生方にも聞いてみたところ、先生方に共通していたのは、コミュニケーション力でした。
栄養士の活躍の場はたくさんありますが、どんな場合でもヒトとの関わりを無視することはできません。例えば給食現場では、たくさんの方と一緒に業務を進めますが、そこには様々な年齢や性格の人がいます。時間通りに安全でおいしい給食を提供するというミッションをクリアするには、その方々を把握し、適切に配置して動かさなければなりません。単にコミュニケーションが取れればよいだけでなく、人をまとめる力が必要です。相手の立場にたって物事を考える力、多角的に人を見抜く力、全体を見渡せる力も必要になります。そしてなによりその方々に信頼される人間性であることが大切です。
その他には、栄養学を踏まえて調理ができること、もてなしや食をプロデュースすること、柔軟性があること、オンラインスキルなどもありました。さらに、栄養士の活躍の場が多岐にわたるということは、その場に応じて求められることも変わってくるので、より専門的な知識が必要になることもあると思います。
ただし、これらが今の自分には備わっていないから向いていないと嘆く必要はありません。経験を積みながら、経験を積んだからこそ身につく力でもあります。
また、ニーズに応えて栄養士として働くための様々なスキルを身につけることも大切ですが、その前に栄養士としての姿勢も大切だということも先生はおっしゃっていました。
ヒトの健康や幸せに直結する仕事なので、働きはじめた頃は、気後れしたり、能力不足を嘆くこともあるかもしれません。しかしそんな時でも常に学んでいく姿勢が大切です。
学生の時の学びは授業の中にありますが、社会に出てからの学びは業務の中にあります。師が上司や同僚になりますので、その方たちとコミュニケーションを上手にとる方法を探っていかなければなりません。自らの気付きにより、もっと深く学びたい、もっと知りたいという気持ちが強くなると思います。その思いに忠実になることで、スキルも身についていくでしょう。
栄養士という職業に将来性があっても、日々変化する業界のなかで、常に更新し続けようとする姿勢がなければ仕事もうまくいきません。栄養士は資格を取ったら終わりではない職業です。自分が栄養士として、将来どんな役割を果たしたいのかをしっかりと考えておくことも大切です。
栄養士は将来性のある仕事
今回は、栄養士の将来性について解説してきました。
栄養士・管理栄養士の存在価値が、まだまだ社会に浸透していなかった時代を経て、現在では、栄養士・管理栄養士のニーズは着実に増加しています。今後ますます栄養士・管理栄養士の需要は高まっていくことが予想されますので、ぜひ栄養士免許を取得して仕事に、キャリアアップに、つなげてみませんか?
愛国学園短期大学の食物栄養専攻では、ニーズに合った献立を提案でき、調理技術に長けた栄養士を育成します。実習の授業が多いので学校で調理を実践する機会が充実していることも特長です。これまであまり料理をしてこなかったという方でも出汁の取り方、包丁の使い方から学ぶ調理実習もありますので、どうぞ安心していらして下さい。できるようになりたいという気持ちが大切です。
最近は、学んだことをアウトプットして実践力や応用力を身につけることにも重点をおいていて、産学連携プロジェクト等にも積極的に取り組んでいます(http://shinwap.s112.coreserver.jp/aitan-re/collaboration-pj/)。
栄養士以外にも、フードスペシャリスト、フードコーディネーター3級、アスリートフードマイスターの資格取得が可能です。(食物栄養専攻:http://shinwap.s112.coreserver.jp/aitan-re/course/food/)これらの資格は、栄養士に+αでもっていると栄養士としての幅や深みが増し、より活躍の場も広げることにつながります。栄養管理は完璧でも食べてもらえなければ意味がありませんので、おいしさ(味だけでなく見た目も大事です)やもてなす気持ちも重要であると考えています。また健康のためには栄養と並んで運動も大事な要素ですので、運動と栄養の知識を深めることも推奨されます。もちろん、公務員試験対策・四年制大学への編入試験対策も行っています。個別指導で行いますので、苦手な部分の対策も丁寧にサポートします。
食と栄養および健康に強い関心があって、栄養士になりたいという目標がある方、栄養士に関心がある方は、ぜひ一度本学のオープンキャンパスや個別相談などにご参加ください。
《参考》
厚生労働省:https://www.mhlw.go.jp/index.html
https://www.mhlw.go.jp/content/000785418.pdf
全国栄養士養成施設協会:https://www.eiyo.or.jp/about/nutrition_policy_jp.html
公共社団法人日本栄養士会「管理栄養士・栄養士として働く方のための就職ガイド」: